樹立の並んだ静かな校庭に沿ひ乍ら無心に径を辿つてゐるとたんに読本の斉唱なぞがふと一斉に湧き起る時、不思議な色彩に粉飾された靄のやうな一つの心が、急に叩かれたやうに躍り出すのであつた。
――(言葉で表はせば其のやうな物にもなるが実際は、其れに似通つた多少の感が僅かに漂ふ気配の如くに心に覚えられたと言ふだけである――)雨の日は又恰好な休息場所として停車場のベンチがあつた。
其処では、慌ただしげに出入する老若の人人が、晴れたる日とは趣きの違ふ心構へで呟きを残し染を落して変転し、空虚なる人の心を慰めもし紛らせもする。