と罵り乍ら自棄くそな有頂天で騒ぎたかつたものであらうか。
あれは矢張り実に麗かな春の一日のことであつた――(その麗かな空模様を今もありありと覚えてゐるが――)とある寂しげな村落を街道伝ひに彷徨うてゐた駄夫は、道に一つの閑静な寺を見掛けて突然この気持に強く圧されたのであつた。
その寺は丁度嶮しい坂路の途中に位し坂の下から坂の上へ、其処ら一帯の地域が欅や松や椎なぞの鬱蒼とした喬木林に圧し包まれて、しんかんと冴えた昼時のしづもりに人の心は医し難い一種の旅情を、恰も遍路の人のやうに甦らせる場所であつた、一つにはさういふ雰囲気の所為もあらう、又一つには其れが寺院であるために比較的恥を伴ふ率が少い、そんな理由もあつたのであらう、その日、この突然な衝動は極めて自然に駄夫の全部を占領して、彼ははや咄嗟に足を山門へ向けて静かな街道を逸れてゐた。