彼は街道を慌ただしげに通り過して、専念に竹藪の家へ歩いた。
或る朝ふと目を覚したら、その日は直ぐと階段の降り口に、それ故丁度沓脱のあたりであらうか、殆んど枕の横手あたりに聴きとれるほど程近い階下にあたつて、与里の一家は癇高い叫喚を張り上げ乍ら口論に耽つてゐた。
それでは今朝は斯の争論の喧しさに起されたものかと思ひ、其の儘それに吸はれるままに何気なく耳を澄してゐたら、その時癇高い音声は殆んどぢかに駄夫の耳もとに鳴り響くにも関らず唯ガヤガヤ意味を持たない一聯の音響に聴きとれたばかりで、それの意味を打ち消してしまふほど戸外は更らに猛烈な風雨が荒れてゐた。