与里は辛くも半ば開いた重苦しげな番傘へ肩から上をスッポリもぐし込むやうにし、生気の失せた長身をだらしない「く」の字に曲げて、横殴りの繁吹のなかを、何か冷い決意を追ふかに息を詰めて歩いて行つた。
しかしそれは、一見変に突き詰めてゐて忙しく大股に見られるものの、又なにがしの太い気落ちと、ガッカリした何か無限の弛緩が見えた。
二階から秘かに窺ふ駄夫の気配に傷心の与里が気付かう筈もなかつたし、長い歎きを閉ぢ籠めて来た濡れた戸口へ首をめぐらす感慨に唆かされる甘さもあるまい、丁度嵐の遠のいて行く妙に四辺のホッとした変に白々と味気ない広さの中を、与里はただ何のこともなくヂャブヂャブと――駄夫の覗く小さな視界を、或ひはまるで平べつたい舞台の中を、硝子戸越しに一人悄々と横切つて瞬くうちに見えなくなつてしまつた。