――与里の老母は壁に凭れて右手を右脇に差し入れたまま唯グッタリと項垂れて、殆んど其処に一年間も動く機能を忘れ果てて坐したる人の面影をしてゐた。
朝の挨拶を述べ乍ら駄夫がその前を通り過ぎる時、途端にチラリと一瞥を――それも漸く駄夫の胸のあたりへまで重苦しげに持ち上げはしたが、すぐと又下へ落して最早そのまま動かうとする気配もなかつた。
ただ、首を擡げて直ぐさま落した物憂げな動きのなかにも、それを会釈に代へようとする幽かな素振りが見受けられた。
――与里の老母は壁に凭れて右手を右脇に差し入れたまま唯グッタリと項垂れて、殆んど其処に一年間も動く機能を忘れ果てて坐したる人の面影をしてゐた。
朝の挨拶を述べ乍ら駄夫がその前を通り過ぎる時、途端にチラリと一瞥を――それも漸く駄夫の胸のあたりへまで重苦しげに持ち上げはしたが、すぐと又下へ落して最早そのまま動かうとする気配もなかつた。
ただ、首を擡げて直ぐさま落した物憂げな動きのなかにも、それを会釈に代へようとする幽かな素振りが見受けられた。