其処にはバケツや鍋なぞを並べて、ポタポタ落ちる黒い滴を受ける工合に計られてゐたが、しかし何分雨漏りの場所が多くて鍋やバケツが廻らぬらしく、雑巾や新聞紙を敷きなぞして、それが又濡れて崩れて、そこら一面に目も当てられぬ様子であつた。
台所へ来てみたら、其処はもう雨漏りどころの段ではない――明取や建付の悪い戸口から自由に吹き込む嵐のために、床板は無論のこと、壁も釜も庖丁も一様に濡れてギラギラしてゐた。
成程、今朝に限つて、あの裂くやうな総江の喚きが聴き取れぬのも解し難いと思つてゐたが道理なことで、探ね見廻はす迄もなく家全体に彼女の姿は影も無い。