いい気なもので、駄夫を慈愛する母のやうな形でもあり、笑止千万なものではあるが――駄夫は別段笑ひたくもなかつたし――それに駄夫は、人間の斯る甘さに特別の好感を持つ男だから(――そしてそれ故人間が好きでもあるから)彼も亦いい気になつて、かかる機会に、かかる沈黙に迫まられたことをいいことにして、ヂッと瞑目を逞うした。
斯る機会に、斯る雰囲気に包まれて、最も寛大なそして自由な放心に浸り得ることは、好ましい一種の道草ではないか!
それ程のことでもない――無論、それ程のことでもない――ああ、夜は静かなものである。