そして素早く横手を指して、敷居のわきに項垂れて遠慮がちに控えてゐる若い婦人を、「これは俺のワイフだよ。
どうぞ宜しく――」と紹介した。
「至らない女だから……」と、駄夫に向つて言つてゐるかと思ふと、ツと腕を差し延して――明るい部屋へ戻つてきてボンヤリ坐つてゐる多次郎の頭から、まだ脱ぎ忘れてゐる帽子をヒョイと取り上げて、すぐ立ち上つて其れを柱へ掛けてやり、ついでにヒョコヒョコ歩いて行つて、少しばかり開いてゐる台所の障子をカチンと締めたかと思ふと、何食はぬ顔をして静かに元の坐へ戻り、懐中から手拭ひを取り出して厭に光沢のある額を丁寧にぬぐつてゐる。