人間といふものは可笑しなものだ、何を見るにも多少の贔屓がまつわるとみえて、決して紅子に悪意を懐いたわけではないが、駄夫はそぞろに総江といふ人が、気の毒な、いぢらしいものに思はれてしまつた。
駄夫は紅子と丁重な挨拶を交し――さういふハヅミで、ゴソゴソと物音のする入口の方へ目を逸らしたら、老婆は暗い沓脱へ屈んでそれぞれの履物を始末してのち、やうやく畳へ這ひ上つて明るみの方へ泳いで出たが、一座の方は全く見ずに部屋の隅ばかり沿ふやうにして、ひとり静かに何時もの壁際へ寄りそひ影のやうに坐つた。
「ぢやあ、僕は少し仕事がありますから……」