十円出せ」
玄也は多少ムッとしたものとみえて――しかし、それは色にも出さず生真面目な顔をしながら、絵描きといふものはどうも尊大で処世の術に疎いから商売になるまいとか、もともと美術といふものは贅沢物で不景気の当世には役に立たない代物だから、ヘッポコ画家はオマンマの食へないのが当然だとか、お前さんも一枚十銭の似顔絵でも描きやアいいのに、なぞと、実にさりげない当り前な顔をしてチクチク皮肉を言ふ奴である。
かと思ふと、だしぬけに腕を差し延して、駄夫の着物からヒョイと糸屑を払つてやり、少うし別な顔をして、しかし、とにかく芸術家は神聖な、俗を超越したところの仕事である、と、頻りに今度は頷いてゐる。