しかし駄夫はその感傷に格別心も動かさず、鍋と総江の間を抜けて麗かな戸外へ――井戸端へ立ち出でた。
心静かに洗面して戻つてきたら、其の時も矢張り炊事に専念してゐた総江は忙しげに盤台の上へ跼んで――その実は何んでもない何物かをいぢくり廻してゐただけのことだが、恐らく駄夫の戻るのを待ち構へてゐたのであらう、しかし決して駄夫の方を見やうとはせず故意に空々しい様子をして「いいお天気ねえ――」と呟くやうに言ふのであつた。
そのあまり心細げな侘びしさに吐胸の突かれる思ひをした駄夫は、気の毒な総江の様を見るに忍びず、戸口の中へ片足を踏み入れたまま咄嗟に後を振向いてしまひ、ほれぼれと静かな空をふり仰ぐやうにして