紅子は、併し(これも亦意外なことであつたが――)玄也の言葉が如何にもうるさいやうにまるで取り合はうともしない様子で、ふと下の下駄へその目を逸らした。
それは又見様によれば、一刻も早く下駄を穿いて出て行つてくれといふ冷淡な暗示のやうに取ることが出来たし、何か一寸慌てたやうな、負けてはなるまいとしてドキンとしながら背水の陣をとるやうな、さういふ何か突きつめた態度にも見えた。
たちどころに玄也は困惑して、寧ろ悲痛とも言ふべきものを表情の中に漂はしたが、すぐにそれを揉み消すやうな又諦らめるやうな白つぽい顔付をして、動作に変にリズムをつけ乍ら沓脱へ降りて下駄を穿いた。