別段に盛夏の暑気が堪え難いといふわけではなく、私は、汗にまみれて寝てゐることにさしたる苦痛を感じないのだが――この一家では、凡そ扉といふものが一部屋に一人を守る砦とは解せられずに、専ら人々を運び込んでくるのであつた。
第一に、この家の主婦が舞ひ込んでくる――
宿の主婦は芸妓あがりで、四十五六の年配であらうか、昔はさる人に囲はれてゐたが、その人に死別してのち、今は長唄の師匠であつた。
別段に盛夏の暑気が堪え難いといふわけではなく、私は、汗にまみれて寝てゐることにさしたる苦痛を感じないのだが――この一家では、凡そ扉といふものが一部屋に一人を守る砦とは解せられずに、専ら人々を運び込んでくるのであつた。
第一に、この家の主婦が舞ひ込んでくる――
宿の主婦は芸妓あがりで、四十五六の年配であらうか、昔はさる人に囲はれてゐたが、その人に死別してのち、今は長唄の師匠であつた。