すると、さうこうする中に、お弟子さんが詰めかけて来て、彼女はツと階下の気配へ耳を欹てたかと思ふと――決して挨拶の言葉すら返すまいとするかのやうな苦りきつた私に向つて、彼女も亦決して聞き取れる言葉では別れの挨拶を述べやうとせずに、再びあの、立ち現れた時の、朦朧として夢のやうな顔、形をして、戸口の向ふへ消えて行つてしまふのである。
すると忽ち階下から、お嬢さん、大変姿勢が悪うござんすよ、もつとお嬢さんらしく、グッと斯う気取つて……と、まるで違つた音声で言つてゐるのが聴えてゐる。
そこで私は、そのとき何物かの気配に由つて已に全く孤独であることを納得せしめられて、――然し、もはや、その静穏な孤独も悦ぶ気力のない私は、やがて甚だ沈鬱な動作と共に、ガッカリとただ寝倒れてしまふのである。