決して人の神経を顧慮することのない、野性的な、ベルトのやうな神経をもつて、十瓦ほどのカルモチン錠剤を嚥み下してみたり、遺書を残して行方を晦ましたり、常に何事かの騒音を惹起することに由つて、其の存在を認識せしめやうと企むかに見えた。
麗かな朝、陰鬱な朝、――朝は概ねヒッソリとして階下の一室に閉ぢ籠つてゐる男は、午過ぎ頃になると突然 wachchchchch と張り裂けるやうな悲鳴をあげて、「俺はつらい、拙者は悲惨だ!
と嘆き乍ら手足をバタバタ力一杯に畳や壁へ打付けてゐるが、軈てやにわに自分の部屋を飛び出たかと思ふと、家中の戸をひとわたり(勿論私の戸も――)蹴倒してしまひ、「ああ、不潔だ、ああ不潔だ、この濁つた空気は堪え難い、めまひがする、窒息しさうだ、w ― w ― w ― w ― w …………苛々する、ああ、苛々する、wachchchchch ……」――坂道の一角を指して(其処には広い睡むたいやうな静かな緑が展けてゐるが――)走り去つてしまふのである。