又例へば、真夏の宵の、厚みの深い薄明がジットリと流れかかる時分に、殆んど言ふべくもない静寂に同化し乍ら、私が、夕食の膳に向つてゐると、突然この不愉快な金属は、決して私を問題にしない無関心な顔付をして私の部屋へ這入つて来たかと思ふうちに、不意に食膳の上へ屈み、焼魚の尾鰭を二本指先で撮みあげて、汚ならしさうに窓の外へ投げ出してしまひ、「ああ、この悪臭には実に悩まされた――」と呟き乍ら清々して立ち去らうとするのである。
事実といふものを決して即座には呑み込むことの出来ない私は、彼が已に後姿になつてのち初めて劇しい憎悪に襲はれるのであつたが、すると彼は、(内心私の激昂を決して無視してはゐなかつたので)、忽ち後姿にも生真面目な恐怖を表はして、しかも尚無関心を装ほひ乍ら、面白さうな足どりで階段を降るのであつた。
私は覚えず逆上して――その時已に彼の閉ぢ籠つた階下の一室を荒々しく開け放ち、