そして又、私は、狼狽を隠すためではあるまいけれど、様々な別なことを考へやうとして、結局何事も思ひつかずに、ボンヤリと赤いものに眺め入つてゐるのであつた。
私は毎日、病院へ通ふのである。
灰色な、あの厳つい石門を潜つて、大きな建築の中に生命の見窄らしさを威嚇されたくない私は、そして、白い着物を着た、決して親愛を顔に出さうとしない人々から、邪魔者の(殆んど世の中にさへ――)のやうに眺められたくない私は、そして又、何物かの追求のために全く目まぐるしい活気に満ちた廊下を、あのベタベタと鳴るスリッパの世界を、脇見をしない白い人々の往来を、眺めたくない私は、(私はそれをそんなに強く怖れたわけではないだらう。