然し私は些少の嫌悪にも堪え難いから――)、斯うして私は、腕の確かな、しかし非常に平凡な、そして相当に貧乏な、(決して石の家には住まつてゐないところの――)、更に又、時々私がわけの分らぬ独語を思ひ余つて呟く時にも、きつと其の人はビックリして私の顔を凝視めながら、ぼやけた声で「何ですか――」と訊いてみて、自分の方で赤面してしまふやうな――私は、斯様に好人物なドクトルを、探し出すことが出来たのであつた。
その人は私の症状に就て、全く漠然としか語ることを好まなかつた。
そして、白い漆喰の方を向いて手を洗ふ時にのみ極つて、もう殆んど全快に近いこと、本来非常に軽微な症状でしかなかつたことを、その時だけは語気を強めて、然し次第に語勢の落ちた小さな呟きのやうにして、遂には結局手垢と手と共に洗ひ流してしまふやうに、呟き終はるのであつた。