そして今度は私の方を振り向いて、もし私の気さへ進むなら、転地してみるのも悪い試みではないことを、早口に、ごく簡単に述べるのであつた。
しかし、私は、殆んど旅の経験を持たない人間であつたので、汽車に乗ること、見知らない土地へ向つて一人走り去ることの心細さや、旅先での様々な煩瑣な心遣ひのことなぞが、私を重たくして、私はそれを考へることも寧ろ好まないやうであつた。
そして私は、この単純な白漆喰に取り囲まれて、簡潔な、直線的な医療機械に護られてゐると、凡有る蟠まりを発散して、白痴のやうにだらしなく安心したい気持になつた。