その妻君は、私の気配を知つて、矢張り外出の仕度をしはじめたのであつた。
ある理由によつて、私が不在にするときには、必ずこの人もその部屋を立ち出でる必要に迫られてゐるからであつた。
長い惨めな生活に踏みしだかれ、痛められ通してきた此の婦人は、そして又、深い教養を持つ此の婦人は、憖ひに教養のあればあるだけ、自らを省みて臆病にしか振舞ふことが出来なかつたので、私に救ひを求めるやうな――それでゐて、決して然し自分の要求を露骨には表はすことが出来ずに、寧ろ自らを嘆くやうな、自らを卑しむやうな、遣り切れない心細さを漂はして、私の後を歩いてくるのであつた。