――不愉快な薄笑ひを私の部屋一杯に満した彼は、その平凡な、四角張つた顔の暈を幾つとなく部屋の空気へぬき残して、一礼し乍ら、(尚薄笑ひを私に浴せて――)立ち去らうとするのであつた。
そして、後向きとなつた途端に、(当然私は想像することが出来るのであるが――)、彼は已にその瞬間に、その不愉快な薄笑ひさへ跡形なく取去つてしまひ――順つて、その一瞬間以前まで私と交流してゐた雰囲気を何一つ跡に残さぬ冷酷な態度で、「社交――敷居――亭主」――彼は亭主に還元しやうとするのである。
私はむらむらして――然し一時も早く心の平静を取り戻したいと思ふので、素早く大の字なりに倒れてしまふが、寝てみると沸々と湧く癇癪は弥増しにたかぶるやうで――私は騒がしく跳ね起きて、きこえよがしに、音高く、部屋の掃除をしはぢめるのであつた。