そして、後向きとなつた途端に、(当然私は想像することが出来るのであるが――)、彼は已にその瞬間に、その不愉快な薄笑ひさへ跡形なく取去つてしまひ――順つて、その一瞬間以前まで私と交流してゐた雰囲気を何一つ跡に残さぬ冷酷な態度で、「社交――敷居――亭主」――彼は亭主に還元しやうとするのである。
私はむらむらして――然し一時も早く心の平静を取り戻したいと思ふので、素早く大の字なりに倒れてしまふが、寝てみると沸々と湧く癇癪は弥増しにたかぶるやうで――私は騒がしく跳ね起きて、きこえよがしに、音高く、部屋の掃除をしはぢめるのであつた。
田代笛六は、怒りだすと、怖いのであつた。