「古池や蛙飛び込む水の音、淋しくもあるか秋の夕暮れ」
私は、右の和歌を、五十嵐力氏著、「国歌の胎生並びにその発達」といふ名著の中から抜き出して来たのであるが、五十嵐氏も述べてゐられる通り、ここには親切な下の句が加へられて、明らかに一つの感情と、一つの季節までが附け加へられ説明せられてゐるにも拘はらず、この親切な下の句は、結局芭蕉の名句を殺し、愚かな無意味なものとするほかには何の役にも立つてゐない。
言葉の秘密、言葉の純粋さ、言葉の絶対性――と、如何にも虚仮威に似た言ひ分ではあるが、この簡単な一行の句と和歌とで、その実際を汲んでいただきたい。