部屋そのものの狭さのやうに其は狭少で冷酷で、虚無へまで溶けさせてくれるやうなあの雑沓の温い寛大さが足りない。
そのために先生はなるべくならば陰鬱な部屋の窓から黄昏の空の動きやパラパラと降る星のあかりを眺めないやうにして、逍遥に疲れた時は花やかな喫茶室へもぐり込んで皿やフォークのガチャ/\と鳴り響く音に白い心を紛らすやうにした。
そして又街へ出ると、ある時は飾窓を覗き乍ら寧ろ往来の邪魔物のやうにノロノロと歩いてみたり、又或時は素敵な敏捷さで人波をグングン追抜いてみたり、又或時は流されるままに漂うて同じ道を戻つてみたり其他様々な態度を用ひた。