併し辰夫は毎日の面会が終る度に必ず目に泪を泛べて、「又明日もきつと来て呉れ給へね、君一人を待暮してゐるのだから」と言ひ乍ら痩せ衰へた指を顫はせ私の手首をきつく握るものだから、私も余儀なく毎日のやうに病院へ足を向けた。
初めのうちは寧ろ病院へ行くのが珍らしくもあつた。
厳めしい石門を潜つてだらしなく迷ひ込む瞬間から、私も一人の白痴のやうにドンヨリしてしまふ精神状態が気に入つたり、それに私は、その頃辰夫のほかに全く友達を持たなかつたので退屈を持余してゐたから。
併し辰夫は毎日の面会が終る度に必ず目に泪を泛べて、「又明日もきつと来て呉れ給へね、君一人を待暮してゐるのだから」と言ひ乍ら痩せ衰へた指を顫はせ私の手首をきつく握るものだから、私も余儀なく毎日のやうに病院へ足を向けた。
初めのうちは寧ろ病院へ行くのが珍らしくもあつた。
厳めしい石門を潜つてだらしなく迷ひ込む瞬間から、私も一人の白痴のやうにドンヨリしてしまふ精神状態が気に入つたり、それに私は、その頃辰夫のほかに全く友達を持たなかつたので退屈を持余してゐたから。