厳めしい石門を潜つてだらしなく迷ひ込む瞬間から、私も一人の白痴のやうにドンヨリしてしまふ精神状態が気に入つたり、それに私は、その頃辰夫のほかに全く友達を持たなかつたので退屈を持余してゐたから。
それに又全快し乍ら狂人で暮す此の秀才の物語るところが、その奇怪な心境を通して眺められた此の病院の様々な風変りな出来事や、それに対する鋭いそして奇妙な彼の観察や批評等、全てが興味深いもので、いはゞ私は全く打算的に、面白づくで此の病院へ日参してゐた。
ところが暫くするうちに、私達の間には話の種が尽きてしまつた。