すると鋭敏な辰夫は勝れた神経で忽ち私の胸中を推察し、別れ際には尚劇しく慟哭して、「迷惑だらうけれど明日も又、ね。
君が来てくれないことになると僕は夕暮れを待つ力も失つてしまふ……」さう言ひ乍ら思ひがけない強い力で私の手首を握るので、その突瑳に私ははや明日の負担にフラ/\し乍ら、長い廊下を消え去るやうに歩きはぢめるのであつた。
すると看護人に伴なはれた辰夫は別な廊下へ――そこには鉄の扉が三ヶ所にも鎖されてゐるが、まるで私をも幽閉する音のやうに鋭い金属の響を放ち、彼等の去り行く跫音と共に次々に開閉される憂鬱な響が地獄のやうな遠方から聞えてくる。