漸く女が笑ひ出したとき、信夫は更に声をたてゝ哄笑し、漸く私がその意味を悟つたとき、笑ふ男は今まで後手に隠しておいた大きな獲物を現して縁側の上へ静かに置き、さうして、まるみのある柔かい音が縁側の上に残されたとき、笑ふ男は首をあげて二人を眺め、更に高らかに笑ふた、柔かい、重みのある柔かな音、ほんとうに、まるみのある柔かな音がしたのであつた。
曾て私の知らなかつた、不思議に生き生きと豊かな色彩を含んだ新鮮さ、そして新鮮な力を、私はその柔かな音の中に感じた。
私は朦朧とした薄明の中へ騒ぎ立つ狼狽の瞳を紛らせて、私の胸を、私の窶れた頬肉を斯んなにも冷え/\とあふり、斯うまで鋭く痛めつけた重い柔かな音の名ごりを思ひうかべて、さむざむと夕靄を眺め、私も、どんよりした黄昏の中で静かにそして爽やかに笑つた。