あの男も自殺臭いと言ふ者もあつたが、彼の顔付を見たことのある人々は思はず噴きだしたりしながら、そんな突きつめた素振りは微塵もない彼の勿体ぶつた顔を思ひ出して、あいつはつまり変り者といふ奴で、考へる頭はいいにしろ生きる頭は悪い種類の、丁度動物園の河馬を考へ深くしたやうな割合と無難な愚か者の一人だらうと噂した。
そこで宿の亭主が考へたことには、これはてつきり下宿料を値切る魂胆に相違ないと勘のいいところを人々に洩らしてゐたが、実に呆れ果てたことには(そして宿の亭主が悦んだことには――)月末がくると催促もしないうちに定まつた下宿料を届けてよこした。
もと/\この男は金払ひの几帳面な男であつた。