併し彼女が五十名近い会員の中から彼のみに挨拶し話しかけるやうになつたのは、たしかに何らかの興味ある性格を此の男の中に嗅ぎ出したからに相違ない。
いつたい此の男(村山玄二郎と称んだ)は一見甚だ冷めたい孤独の威圧を漂はす男で、かういふ男に挨拶したり話しかけたりするには余程の無関心か余程の労力を必要とする。
どこの交遊関係にも斯んな人物の一人二人はゐるものであるが、さて話してみれば見かけによらず物分りもよく、寛大で、寧ろ他人の好意に感動し易いと思はれるほど盲信的で、おまけに絶えず温い心を秘かに他人へ燃しつづけてゐたりする。