内心人の思惑を気に病むたちの娘の父は己れの秘密の眼力が風のやうにたあいもなく青年の勘に伝はつてしまふことも心外であつたが、看破られた心を隠さうとしない青年の態度が己れの弱身への挑戦に思はれ、この年寄はたかが人間の裏の複雑な心さへ容れることのできない小人物にすぎないのかと、暗に斯様な嘲弄をほのめかしてゐるやうに思はれて逆上を覚えずにゐられなくなるのです。
そこで老人は自分もそれほど小心者でないことを暗示するため色々の方策を考へるのであつたが、考へてはみるものの行ふ機会を逃がしたり、行つてはみるものの頗る下手糞な表現であつたりして、要するにさういふ重苦しい心の負債が対談する青年の心にも深い溝をつくらせるやうになりました。
ある夜のこと、老人はすこし酔ひすぎてゐましたが、たうとう青年をカフェへ連れていつたのです。