どういふ原因か知らないが息子の気持が次第に許嫁の娘から遠のきはじめたことに母はめざとく感づいたが、この母はそれすら黙過しやうとしたのです。
それは恰も世間には恋人同志厭気のさす例も沢山あるといふ一般的な現象を肯定するのあまり、現在自分の息子がその許嫁から遠のきはじめてゐることに対してもこれを人一般の宿命のやうに黙過しやうといふ有様でありました。
さうして、世間には気にいらない女と不幸な結婚をしなければならない人が沢山あるやうに、息子の結婚も斯様に進行しなければならないとすればそれも仕方がないと考へたもののやうであります。