残りの四坪が四壁を丸木に囲まれた居間兼寝室で、様式は和洋折衷、といふよりも、之がつまり最も自然な手のこまない様式だからに他なりませんが、先住は呑気な人で、蒲団も書物も食器も往時あつたがままの同じ場所へそつくり残してありました。
彼は身体一つで片田舎の教壇へ逃れたのです、といふのは、きつと又あの谷川を渉つて帰る時があるといふ妄執があつたからに他なりません。
青年が辿りついてまづ驚いたのは、この瞬間まで人が棲んでゐたとしか思はれない生々しい物品の累々たる存在でありましたが、ただ一つ不足のものが遥かの谷川から樋を伝つて導かれてくるところの必要欠くべからざる飲用水が全く一滴も流れることがなく乾あがつてゐることでありました。