青年が辿りついてまづ驚いたのは、この瞬間まで人が棲んでゐたとしか思はれない生々しい物品の累々たる存在でありましたが、ただ一つ不足のものが遥かの谷川から樋を伝つて導かれてくるところの必要欠くべからざる飲用水が全く一滴も流れることがなく乾あがつてゐることでありました。
あとで谷底の水源を探つてみると、水の流れ口に朽葉がつまつてゐるのを見出しました。
玩具のやうな夢に富んだ丸木小屋も娘の心を幻想の世界へ連れさることができませんでした、なぜといへば、谷川にかかつて以来、緊張と亢奮によつて、娘はまつたくうはの空でしかなかつたからであります。