実体の探究者、或ひは実体と争ふ人にとつて、「行」に先立つ醜も美もありえない。
正宗氏の足跡は苦行者の如く、その数十年の作家生活は一途に悩みつづけてきたかの外貌を呈してゐるが、実際は、当然悩むべきところに悩むまいとする逃避的な悩み方ばかりを悩みつづけてきたものと私は解する。
ところが正宗氏は所謂政治家実業家の「腹のできた人間」ほど莫迦になりきるにしては聡明すぎる頭を持ち、峻烈な理知をもつてゐるから、自分の逃避的な人生態度に時々自ら批判者の側に立ち、せめて思弁の中でなりと逃避的ならざる素裸となり景気をつけてみやうとする。