肉体の悩みに正面からぶつかつて行かうとせず、頭の中で悟りすまし、或ひは頭の中で悟りを打ちこわしてゐた正宗氏は、いまだに救はれざる肉体を持ち、しかも不当にその肉体を醜なりと卑下しながら、猛獣の性慾が壮観であるなぞといふ薄つぺらな逆説をもてあそびもつて肉体の醜が救はれたかの野狐禅的悟りに続々ととらはれてゐる。
斯様な逃避性を帯びた、架空な、さうして我々が決して避くべきでない肉体の真実の懊悩には何の拘はるところもない、ゆがめられた想像によつて悟りすましでつちあげられた愚かしい美意識に、過去の文学がどれほど過まられ毒せられたか知れなかつた。
肉体をもたない悩みはまことの悩みではない。