こんな取乱した父の姿を見た覚えのない魚則は茫然として言葉も身動きも忘れてゐると、蒲原氏はよろめきながらヒイヒイといふ嗄れた呼吸で泣いてしまつて、「お前を苦しめる黒い影が私に見えるよ。
怖ろしい私の影だよ!
お前に悲しい物を書かせる水のやうな黒い影が私の眼をかきまはしてゐるやうだ……」と呟きながら、顔を掩うた手をはなし、ふらふらと歩みよつてきたのだが、まんまるい顔全体がまつたく涙に曇つてゐて、幾条のよごれた線が流れてゐた。
こんな取乱した父の姿を見た覚えのない魚則は茫然として言葉も身動きも忘れてゐると、蒲原氏はよろめきながらヒイヒイといふ嗄れた呼吸で泣いてしまつて、「お前を苦しめる黒い影が私に見えるよ。
怖ろしい私の影だよ!
お前に悲しい物を書かせる水のやうな黒い影が私の眼をかきまはしてゐるやうだ……」と呟きながら、顔を掩うた手をはなし、ふらふらと歩みよつてきたのだが、まんまるい顔全体がまつたく涙に曇つてゐて、幾条のよごれた線が流れてゐた。