ところがさういふ荒々しい出来事が過ぎ去つて平和が戻つてきてからの一日のこと、べつに用はなかつたのだが何心なく秋蘭が父の書斎へはいつてみると、蒲原氏は珍らしく書き物をしてゐた。
書き物をしてゐるので立ち去らうとすると、急に蒲原氏は顔をあげて秋蘭おまちと呼びとめ、なあにと言ひながら這入つてきた秋蘭を突然その胸にしつかと抱きしめて、ヒイヒイと掠れた声で泣きだした。
泣きながらも何か言はうとするのであつたが、涙がとめどなく流れるばかりで一向声がでないせゐか、たうとう一言も言はずじまひに終つてしまつた。
ところがさういふ荒々しい出来事が過ぎ去つて平和が戻つてきてからの一日のこと、べつに用はなかつたのだが何心なく秋蘭が父の書斎へはいつてみると、蒲原氏は珍らしく書き物をしてゐた。
書き物をしてゐるので立ち去らうとすると、急に蒲原氏は顔をあげて秋蘭おまちと呼びとめ、なあにと言ひながら這入つてきた秋蘭を突然その胸にしつかと抱きしめて、ヒイヒイと掠れた声で泣きだした。
泣きながらも何か言はうとするのであつたが、涙がとめどなく流れるばかりで一向声がでないせゐか、たうとう一言も言はずじまひに終つてしまつた。