蒲原氏は言ひ終ると嬉しげに蒲原夫人や栗谷川浩平を眺めまはして、その同意を求めようとするのであつたが、と、蒲原夫人は良人のやうな皮肉な意味は毛頭なしに、また良人の皮肉には聯絡のない純真な態度で、「さうですわね、私達ぢや物の役に立ちませんわ。
石河さんにお願ひいたしませう」と言つた。
石河はやむなく引受けて帰つたが、翌朝もしやくしやしながら兎に角六時には上野駅へ現れて、発車の時刻まで苛々と構内を歩きまはつたあげく、どうしても汽車に乗りこむ気乗りがせず、泣きたいやうな癇癪と共にみすみす列車の出発を見送つてから、公衆電話へ荒々しくとびこんで、「つい寝過して一番列車に乗りおくれましたよ。