山の娘は笑ひながらただハイハイと言つてゐたが、蒲原氏の異数な幻想生活を知る由もない素朴な娘は、郷里から戻ると、貧乏徳利の代りに自宅製の綿の包みを差出して、あんな貧乏徳利は汚らしくて莫迦らしくて持つてくるわけにはいきませなんだと笑ひながら言つた。
蒲原氏はがつかりしたが、山の娘がかうも卑下するほど、あの貧乏徳利が彼等の暗澹たる土まみれの生活そのものの中に共々せつない感情を通はせて存在しつづけてゐるのかと思ふと、その芸術品としての品格が一層高度のひろいしみじみとした感傷をともなうて胸にせまつてくるやうでどうやら徳利の現実の相をはなれて、蒲原氏の持つて生れた夢のなかに通ひはじめ、そこにはるばると生育しはじめたやうであつた。
桜枝町から踵を返して、もうすこし目貫の通りで一二の骨董店めいたものを覗いてみたが、それらしいものは見当らなかつた。