それも、遥かな憧れに向つて走らうとする激しいものとは違つてゐてひたすらに逃げ、ひたすらに帰らうとするやうな、蒼ざめたものが感じられた。
だいたいがその時刻から戸隠へ自動車を走らせてみても、人々の寝静まつた山里の夜更けに一軒の家を探しだすのは容易ではなく、その女中が今は村にゐることさへ定かではなかつた。
その次第を話して、むしろ実行を明日に延してはと浩平が忠告を試みると、蒲原氏は浩平の態度から早く忠告の気配を感じとり、話の内容もきかないうちに、忽ち慌てふためいて一も二もなく大急ぎでガクンガクンと頷いてゐたが、暫く沈黙の時間が流れたあとで、朦朧とうはずつた顔をあげて、