元来が呑気者の浩平も流石に困惑を浮べたが、なにかと慰め、今日のところはひとまづ宿へ戻りませうと言ふと、蒲原氏もそれ以上はまつたく逆らはずに、頷いて、二人はとぼとぼ歩きだした。
打ち合せた宿へついてみると、蒲原夫人の一行はすでに魚則を受取つて、二人の到着を待ちうけてゐた。
魚則は激しく憔悴してゐたが、もともと家族に対してはむしろ狂的な親愛の情をもつ男で、自分とわづか三年のひらきしかない蒲原夫人に対しても殆んど聖母を仰ぐやうな敬慕の情を寄せてゐたから、べつに気づまりの様子もなく、三人の母と兄妹はうちくつろいで談笑しながら、二人の到着を待つてゐたのだ。