魚則は激しく憔悴してゐたが、もともと家族に対してはむしろ狂的な親愛の情をもつ男で、自分とわづか三年のひらきしかない蒲原夫人に対しても殆んど聖母を仰ぐやうな敬慕の情を寄せてゐたから、べつに気づまりの様子もなく、三人の母と兄妹はうちくつろいで談笑しながら、二人の到着を待つてゐたのだ。
蒲原氏は打ちしほれて、おづおづと部屋へ這入つてきたが、魚則の顔も見るか見ないにおおと幽かに喉の奥に呻いたきりで、目をまるくして孔のやうな視線を迷はせ、ただベッタリと崩れるやうに坐りこんでしまつたのだつた。
改まつた感情を顔に浮べて今にも何事か言ひだしさうな気勢だつた魚則も、父親の朦朧として樽のやうなだらしなさには度胆をぬかれ、やつれた顔をひきつらせて思はずクツクツと笑ひだしてしまつたのだ。