そこから乗合自動車で約四里、一路松の山温泉へ行くわけであるが、乗合といつても漸く自動車一台が通るだけの断崖絶壁をうねるわけで、所謂大型の乗合は用をなさず、円タクと同じいガタ/\のフォードが走るのである。
停車場からいきなり頭上へはるばると聳えたつ山塊の懐へまつしぐらにをどりこみ、九十九折の山路をひたうねりにうねつて山の完全な頭上まで辿りついてしまふのだが、そこから更らに眼下に向つてうねうねとくだり、再び山のどん底へまひ戻つたところが松の山温泉で、正確に言へば松の山村字湯本、このへんでは松の山温泉なぞと大袈裟な風に言つては却々わからず、一般に湯本で通るのであつた。
温泉は深い谷底にあつた。