恐らく山へ働きにでる女達の丁度この黄昏どきが一定の帰宅の時刻に相違なく、行く先々へ時々ひよいと山の陰から現れてくるが、軽やかで、踏む足に殆んど音のないせゐか、時々それがだしぬけで、ふと浮かびでた人像に夢みる思ひがするのであつた。
行くほどもなく段々畑のところどころに繁つた木立が見えはじめ、このあたり特有の窓の小さい荒壁の農家が現れてきたが、屋内にほのぐらい灯影の気配はあるものの、窓に人影がうつるでもなく物音がたつでもなく、中なる生活を想像する一つの手掛りもつかめなかつた。
せめて女の軽々とした足どりが家の中まで這入るところを突きとめたいと思つたのだが、女の像に出会ふといつても稀れなことで、家もまばらなことであり、さういふことにはぶつからなかつた。