顔馴染になるうちには、おのづと挨拶を交すやうなことにもなり、旦那はまあ東京の方ですとの、といふやうな身の上話に類似のことも言ひあつたりして数度の機会があるうちに、蒲原氏はたうとう抑へきれなくなつて、銅色の娘に向ひ、あの、あなた方はここから帰るとやつぱり山や畑や森林へ仕事にでかけて行くのですか、ときいた。
銅色の娘はハア……と言つて笑つたきり答へるやうな様子もなく、その笑顔や素振りからは否定も肯定も感じることができなかつたが、やがて女は湯槽をでて流しへ坐ると、腕を静かに洗ひはじめて、東京の方には野暮くさい田舎女がさだめし奇妙なことでせうぞいと言ひながら、クスリと笑ふのであつた。
蒲原氏は赤面して、内心深く狼狽して、浴室を立ち去るまでの暫くの時間気が気でない思ひであつた。