銅色の娘はハア……と言つて笑つたきり答へるやうな様子もなく、その笑顔や素振りからは否定も肯定も感じることができなかつたが、やがて女は湯槽をでて流しへ坐ると、腕を静かに洗ひはじめて、東京の方には野暮くさい田舎女がさだめし奇妙なことでせうぞいと言ひながら、クスリと笑ふのであつた。
蒲原氏は赤面して、内心深く狼狽して、浴室を立ち去るまでの暫くの時間気が気でない思ひであつた。
松の山温泉から一里はなれた山中に兎口(をさいぐち)といふ部落があり、そこでは谷底の松の山温泉と反対に、見晴らしのひらけた高台に湯のわく所があつた。