先頭に立つてゐたのは蒲原氏だが、その眼の先二三尺のところを掠めて足もとへ落ち、大きくはづんで、谷底へ激しい音を発しながら転がり落ちていつたのだ。
思ひがけない出来事に驚きの叫びもでない蒲原氏が、やうやく我に返つて頭をあげ、草木の密生した木暗い頭上の山を仰ぐと、なにぶん頭上のことではあり草木の密生した山のことで、人の像は分らないが、ガサ/\と草をわけて逃げる物音がきこえてゐた。
ちよつと見えたと思はれた後ろ頭のぐあひから、どうやら女らしいと思はれたのだが、果して実際見えたものやら見えた感じがしたものやら、それすら至極曖昧であつて、そのうちに、草をわけて逃げて行くガサ/\といふ物音も全くきこえなくなつてしまつた。