ちよつと見えたと思はれた後ろ頭のぐあひから、どうやら女らしいと思はれたのだが、果して実際見えたものやら見えた感じがしたものやら、それすら至極曖昧であつて、そのうちに、草をわけて逃げて行くガサ/\といふ物音も全くきこえなくなつてしまつた。
一同の意見をきき合はせると、後ろ頭の見えたことは確からしく、女らしいといふ点では一致したが、そのほかのことになると例の仕事着の山の農婦であつたらしいと言ふ者もあり、和服の女で白地の着物が草のあひだにのぞけて見えたといふ者もあつて、全く意見は区々だつた。
命中すれば、まづ生命にかかはることはないまでも、相当の怪我はまぬかれがたい運命で、狙撃を受ける覚えはないから、恐らく柴刈に疲れた農婦が見晴しのひらけた岩角にでも跨がつてぼんやり休んでゐるうちに、物のはづみで手にした石を落すとか偶然石を蹴るとかしてこの仕儀を招くことになつたのだらうと話をして、人々はあまり深く考へなかつた。