そこまでは、この出来事を軽く見たほかの人々と同じであつたが、蒲原氏は、素朴な、無智な、自然のままの山の生物と同じやうに天真爛漫な残虐性を持つて生れた山の農婦を想像したのだ。
下の径を通りかかつた男の姿を見かけると、結果の恐ろしさを考へる余裕は微塵もなく、頭上をめがけてただ石を落してみたい亢奮に酔ひくるひ、石を落して、さて、慌てふためいて逃げて行く歓喜にふるへる張りきつた胸や、ギラ/\と光る眼、羚羊を思はせる柔軟な身体の動き――自然の懐にいだかれた激烈な情熱を空想したのだ。
温泉へ着くと男の一隊は汗を流しに下の浴室へ降りていつたがもう黄昏れて、白昼も薄暗い浴室の中には深い暗闇が澱んでをり人の姿は全くなかつた。